詩「きみはかわいい」(作:最果タヒ)
みんな知らないと思うけれど、なんかある程度高いビルには、屋上に常時ついている赤いランプがあるのね。それは、すべてのひとが残業を終えた時間になっても灯り続けていて、たくさんのビルがどこまでも立ち並ぶ東京でだけは、すごい深い時間、赤い光ばかりがぽつぽつと広がる地平線が見られるの。
東京ではお元気にされていますか。しんだり、くるしんだりするひとは、君の家の外ではたくさんおきるだろうけれど、きみだけにはそれが起きなければいいと思っています。ゆめとか希望とかそういう、きみが子供の頃テレビからもらった概念は、まだだいじにしまっていますか。それよりもっと大事なものがあったはずなのにと、貧乏な部屋の中で古いこわれかけのこたつにもぐって、雪のニュースを見ながら考えてはいませんか。
きみが無駄なことをしていること。
きみがきっと希望を見失うこと。
そんなことはわかりきっていて、きみは愛を手に入れる為に、故郷に帰るかもしれないし、それを、だれも待ち望んですらいないかもしれない。朝日があがってくることだけが、ある日きみにとって唯一の希望になるかもしれず、死にたいと思うのも、当たり前なのかもしれませんね。
当たり前なのかもしれません。
しにたくなること、夢を失うこと、希望を失うこと、みんな死ねっておもうこと、好きな子がこっちを向いてくれないことが、彼女の不誠実さゆえだとしか思えないこと。当たり前なのかもしれない。
きみはそれでもかわいい。にんげん。生きていて、テレビの影響だったとしても、夢を見つけたり、失ったりしていて。
きみはそれでもかわいい。
とうきょうのまちでは赤色がつらなるだけの夜景が見られるそうです。まだ見ていないなら夜更かしをして、オフィスの多い港区とかに行ってみてください。赤い夜景、それは故郷では見られないもの。それを目に焼き付けること、それが、きみがもしかしたら東京に、引っ越してきた理由なのかもしれない。